この照らす日月の下は……
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モルゲンレーテを出た瞬間、ザフトの機動兵器が攻撃を加えてくる。
「……待ち伏せされていたようね」
悔しげに女性がそうつぶやく。だが、それは当然だろうとかが理は思う。
連中はこのトレーラーに積まれたものがほしいのだ。
そうでなければ破壊する。
戦争では当然の考えだと自分はサハクの双子から教えられていたのに、軍人らしい彼女は違うのだろうか。カガリはそう考えて首をかしげた。
「お前はこれを動かせるのか?」
だとするならばまだチャンスはある。もっとも、その可能性はとても低いだろう。地球軍の軍人ならばなチュウラルである可能性が高い。そのナチュラルがMSを自在に扱えるOSはまだ開発されていないのだ。
「……歩かせられるぐらいかしら」
「つまり、格好の的になると」
戦場では、とカガリはまねを寄せる。
「否定できないわね」
言葉とともに彼女は大きくうなずく。
「なら、捨てて逃げればいいだろう」
「出来るはずないでしょう!」
即座に硬度なり返される。
「……地球軍の意地とやらか?」
鼻で笑うような表情でカガリはこう言い返す。
「そのせいで自分たちの家を壊される人間に対して言うセリフではないよな」
この一言に彼女は言葉に詰まったようだ。
「少なくとも、これがなければこの状況は避けられただろうが」
今すぐにでも壊してやりたい。それが自分の本音だ。カガリはそう続ける。
「……ともかく、これ以上、このコロニーの人間を巻き込まない方法を考えるんだな」
「わかっているわよ! でも、私たちは許可を得ているわ」
「内密にな。そんなの、私たちには関係ない」
知らなければないのと同義だろう、とカガリは言い返す。
「第一、開発なら自国でも出来ただろう? それをしなかったのは最初からザフトの襲撃を想定していたという事じゃないのか?」
その時に自国の人間を巻き込まないようにしようと考えていたのではないか、とカガリは続ける。
「ここに来た時点で、ここの人間を巻き込むつもりだったと判断されてもおかしくないだろうな」
それを後押ししたのはセイランか。
地球連合とのつながりを考えれば妥当なところだ。そして、ここがサハクの影響力が強い場所だと言うことも関係しているだろう。
「実際、多くの人々が家財を捨てて避難を余儀なくされている。それは否定できないだろうが」
この言葉に彼女は悔しげに唇をかむ。
「……今は戦争なのよ……」
「オーブは中立だ。ナチュラルもコーディネイターも私たちには同胞だからな」
だからこそ、どちらにも肩入れできないし、する気もない。
そんなところで持論を持ち出したとしても鼻で笑われるだけではないか。
「どちらにしろ、ここの住人にとってはお前達地球軍も加害者だ。それだけは忘れるな」
これ以上話をしても無駄だろう。そう判断をしてカガリは強引に会話を終わらせる。
「地球軍が勝てば、考えも変わるわ」
「……変わらないさ。身内にコーディネイターがいる家族も多いからな」
家族を道具に出来る人間がどれだけいる。そう問いかければ、彼女は渋面を作った。
「私のような子どもにわかる理屈が、大人であるお前にわからないはずがないだろうが」
そう告げたときだ。目の前に小さな公園が見える。
「あそこなら、少しの間隠れていられるかもしれないな」
「だといいわね」
彼女にしても少しは考える時間がほしいのか。あっさりとうなずく。
「右に行けば並木で多少は隠れられるな」
さっさと彼女と別れて本土と連絡が取れる場所に行きたい。出来れば、キラとも合流したいが高望みはやめておこう。そう思いながらカガリは言葉を口にする。
「そのようね」
ため息とともに彼女はうなずく。そしてハンドルを大きく切った。